この記事に辿り着いた皆さんは、多かれ少なかれ暗記に関する不安を抱えているのではないでしょうか。
「なかなか覚えられない」や「量が多くて覚えられるか不安」といったものです。
こういった悩みは、暗記についてしっかり理解することや、自分なりの暗記法を持つことで低減できます。
今回は、そのような暗記の悩みを解消すべく、日々膨大な知識をインプットし続ける医学部生の私が、暗記にまつわる知識と暗記の実践方法をお伝えします。
何かしら覚えたいことを頭に思い浮かべながら読み進めていただくと、自分なりに具体性を持って理解できます。おすすめです。
この記事を読み終えた頃には、きっとあなたは勉強を始めたくなっていることでしょう。
まずは、記憶に関する簡単な知識を説明します。記憶について知ることは、効果的な暗記を実践するための第一歩です。
暗記および記憶の基礎知識
記憶について知ることは、暗記の効率化にも一役買っています。「彼を知り己を知れば百戦殆からず」です!
まずは、記憶の3分類について見ていただき、自分の暗記状態がどのステージにあるのかを理解します。
続いて、記憶のプロセスについて説明します。
効果的な暗記の実践には何が重要なのか理解しましょう。
記憶の分類
心理学的には記憶はその保持期間に応じて「感覚記憶」「短期記憶」「長期記憶」に分類されます(DOI 10.14931/bsd.2564)。
分類 | 説明 |
感覚記憶 | 外界からの刺激情報についての記憶。感覚記憶のうち、注意を向けたもののみ短期記憶となる。 |
短期記憶 | 感覚記憶のうち、注意が向けられたもの。保持期間は数十秒程度。7±2チャンクが保持限界と言われる。 |
長期記憶 | 数分から一生保持される記憶。無限に保持される。短期記憶の大部分は忘却され、一部が長期記憶に移行すると考えられている。 |
上表から大事な部分をピックアップすると、このようになります。
ここからさらに対策を考えると……
といったことが挙げられます。
記憶のプロセス
記憶は、次のプロセスを経て短期記憶から長期記憶への移行(固定化)が行われます。
- 記銘(インプット)
- 保持
- 想起(アウトプット)
この固定化のプロセスは、想起に伴って不安定化した記憶の再固定化により強化されていきます。
記憶固定化のインターバル
よく復習間隔の話になると「エビングハウスの忘却曲線」が話題に上がります。これに基づいて、徐々に復習間隔を伸ばしていく間隔反復を推奨する記事も多く見かけます。
しかし、エビングハウスの忘却曲線は無意味綴りを用いた実験に基づいており、現実の学習内容や個々の記憶特性を反映していないため、これを厳密に学習に応用するのは無理があります。
したがって、復習間隔を厳密にコントロールするよりは、内容を忘れているなら/忘れていると感じたなら復習するというシンプルなアプローチのほうが、現時点では妥当だと考えられます。
記憶固定化のメカニズムに基づく、実践的な暗記の工夫
記憶固定化のメカニズムに基づくと、暗記最適化のポイントは次のようになります。
- 短期記憶の保持限界を対策する
- 「固定化→不安定化→再固定化」のループをひたすら繰り返す
- 分からないことを自覚する
- 重要なところを認識する
これらのポイントを押さえたうえで、私たち医学生が実践しているやり方をご覧ください。
7回読み勉強法
7回読み勉強法とは、その名の通りテキストを7回読む勉強法です。
まっさらな状態から、一旦短期記憶に入れ、固定化するところまで目指しています。
詳細なやり方は、書籍『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』(山口真由)やマイナビ薬剤師で説明されているので、しっかりと学びたい方はそちらを読まれることをオススメします。
しかし、個人的にはそこまで難しく捉える必要がないと思っています。
実際、マイナビ薬剤師の記事でもこのように書かれています。
同じ教材を7回読むだけで、勉強の成果は確実に上がります。わたしはかねてより、自身が実践して結果を出してきた「7回読み勉強法」を推奨してきました。その方法はとてもシンプルなもので、同じ本を7回読むというもの。この話をすると「え、読むだけなの?」といつも驚かれるのですが、実際は同じ参考書なり問題集なりを「7回読む」人はかなり限られます。
筆者の山口さんが仰られているように、とりあえず読めば良いのです。
また、7回読み勉強法と言っていますが、7回にこだわる必要はないとも思っています。私が実践するときは、8回9回と平然と超えることもしばしばです。
1回で覚えようとしなくて良い。覚えるまでは何度だって読み直して良い。
それが、この勉強法の重要な点じゃないかと思います。
語呂合わせ
言われずとも使っている方は多いかもしれませんが、医学部の学生もかなり頻繁に語呂合わせを使用しています。
このように、関連事項をひとまとまりにして覚えることで、短期記憶の容量限界である7チャンクを超えないように圧縮しています。
そうは言っても、語呂合わせなんて思いつかないよ
Googleで検索してサクッと出てくれれば話は早いのですが、中々そうもいきませんよね。
そういうときは、AIに放り投げましょう。
実際に、ChatGPTに語呂合わせを作成してもらうとこうなりました。
次の語句で語呂合わせを作成してください。
# 語句
日本脳炎、風疹、ジフテリア、百日咳、麻疹、ポリオ、Hib、ロタウイルス、肺炎球菌、水痘、結核、HPV、B型肝炎
以下は、挙げていただいた語句をすべて含む語呂合わせの例です。覚えやすいようにストーリー仕立てにしました。
(中略)
語呂合わせストーリー
「日風自転(ひふうじてん)の百(ひゃく)の摩波(まは)の中で、結婚(けっこん)HPB(ひっぷびー)!ロタ(ろた)の水泡(すいほう)を抱えて帰る。」
意味を強調したい場合や内容に合わせた形で改変も可能です。覚えたい順番や内容に応じて微調整もできます!
あまり意味のわからない感じになっていますが、「結婚ひっぷびー!」の勢いは好きです。
あと、中略のところで解説してくれましたが、HPBのPは肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)から取ってるらしいです。
結構柔軟に対応してくれるんだな、と感心しました。
抽象化
「単純に暗記するんじゃなくて理解してから~」うんぬんは聞いたことがあると思いますが、それにあたるのが抽象化です。
抽象化とは重要な情報のみを抜き出して本質を捉えようと試みること
テキストにベースとなる理論が載っているのであれば、その理解を試みるのが重要です。テキストに載っていない場合は、暗記事項の共通項目を抜き出すと上手く抽象化できることが多いですね。
個人的に、抽象化のメリットは次の4つが挙げられると考えています。
どれも重要なのですが、1回覚えれば幅広いことに応用が効くのはとても強いですね。
また、「例外を認識しやすくなる」というのも地味ではあるものの重要なメリットです。
なぜかと言うと、例外は試験に出題されやすいから。失敗しやすいところだから。
このように、抽象化には大きなメリットがあるのです。
音読(暗誦)する
私がよく塾でこっそり生徒にオススメしているのは、音読です。
実は音読ってすごく有用な勉強法なのですが、学校教育では中々行われません。その理由のひとつが、「やったかどうか客観的に判別する方法に乏しい」ため。
ノートなら安価で簡単に痕跡を残せるため、大抵ノートの提出が求められます。
つまり……
「学校は努力を評価しなければならない」→「実現可能性の観点から、ノートの提出が多用される」→「勉強といえば、ノートや問題集など書くやり方が中心に」
ということなんですね。結果として「先生も生徒も書くやり方しか勉強法を知らない」状況に陥りがちです。
先に紹介した「7回読み勉強法」も、読むだけなのですが、読んだことを先生が評価するのが困難なため、まず行われることはありません。
なぜ音読が暗記に有用なの?
それは……
覚えていないところ(あるいは、理解していないところ)はスムーズに読めないため
先述の通り、暗記を効果的に実践するには「分からないことを自覚する」ことが重要です。
やってみると分かるのですが、『頭の中で考えているだけ』と、『実際に口に出してみる』とでは、求められる記憶・理解の質が全く異なります。
その中で、もし噛んでしまったら、スムーズに言えるまでやり直します。
たまたま口が回らなかっただけということも考えられますが、音読なんて大した時間もかかりませんので全てやり直します。
日常生活に不安定化刺激を取り入れる
暗記の基本は、「不安定化→再固定化」のループをひたすら繰り返すことです。
そのため、日常のちょっとした動作を覚えたいことを思い出すきっかけにする工夫をすると有効です。
具体的には、「頻繁に目にする場所に、ちょっとした問題を貼っておく」と良いです。
などがオススメです。いわゆる「壁張り暗記法」です。
また、iPhoneユーザーならショートカットを利用すると、勉強中についYouTubeやTwitterを開く癖を対策することも。
後ほど一例として、YouTubeを開いたときに、問題を出すショートカットのレシピをご紹介しますね。
赤シートを利用する
昔から『赤ペンで書いた文字を、赤シートで隠す』あるいは『黒文字に緑のマーカーを引いて、赤シートで隠す』というやり方が有効であることは知られています。
これを利用しない手はありませんね。
紙とペンで勉強している方は、コンビニでも100円ショップでもなんでも良いので持っておくと良いでしょう。
タブレットで勉強している場合は、後ほど画面の色を赤くする方法をご紹介します。
睡眠前に学習する
これだけ、これまでの主張とは異なる根拠に基づいています。
実は「睡眠前に学習し、余計な干渉を挟まずに寝る」ことは有効な学習方略であるという報告があります(Jeffrey M. Ellenbogen et al., 2006)。
余計な干渉を挟まずに……?
要は、寝る直前に赤シート法や暗誦法を使うと、より効果的ということ!
この方略は、これまでに紹介してきた赤シート法や暗誦法などの効果を増強するものと理解すると良いでしょう。
逆に非効率な方略もある
これまでのポイントで最も重要なのは「不安定化→再固定化」のループを行うことです。
ここの効率を悪くしてやれば、非効率的な暗記方略の完成です。
ひらすら字を書く
この方略は、案外やっている人が多いのですが、労力に比してあまり効率が良くないためオススメできません。
というのも、「不安定化→再固定化」のループを回すにあたって「文字を書く」という行為が律速となるからです。
律速:進捗を決める要因。
今回であれば、文字を書くのに時間がかかるため『勉強時間 ≒ 文字を書いていた時間』となりやすいと述べている。
字を書く練習がしたいのであれば有効ですが、そうでないのにひたすら字を書いて覚えようとするのは少々勿体無いかもしれません。
ひたすらインプットする
こちらの方略も案外やっている方が多いですね。何度も目に焼き付けて覚えようとする方略です。
しかし、暗記をする際には『頭に何度も入れることを意識するより、頭から何度も取り出す方を意識する』方が効率的です(∵ ポイント2)。
たとえば、単語帳を覚える、となったとき、暗記が苦手な人は『覚えていない単語を、覚えよう』とします。一方、暗記が得意な人は『覚えていない単語を、思い出そう』とします。
わたし
暗記が得意な人を観察してみてください。何かに気が付きませんか?
……単語帳をチラリと見るだけで、あまり見ていません
その通りです。暗記が得意な人は、ある程度のインプットが済んだら、単語帳は思い出せなかった時に確認するものとして使います。
このようにインプットを繰り返すよりは、アウトプットを繰り返す方が記憶のメカニズムにもマッチしており効果的です。
暗記をサポートするツールの紹介
ここからは、暗記を支援する道具や、アプリ・サービスを紹介していきます。
簡単な使い方も紹介しますが、専用の解説記事がある場合はそちらを参照していただくことで、さらに詳しく使い方を学ぶことができます。
百均の赤シート&緑マーカー
まずは、シンプルな赤シートです。百均にも売っているので、非常にコスパは良いです。
難点は、私のようにタブレットで勉強する人は使用頻度が著しく低下するくらいでしょうか。
分散学習ツールAnki
続いて紹介するのは、暗記のサポートツールとして医学生御用達のAnkiです。
Anki
分散学習 (定着度にしたがって復習間隔を伸ばしていく学習方法) が自然と取り入れられます。
難点はiOSアプリ版が有料(4000円; 2024/12/22時点)であることと、高度なカスタマイズをしようとすると少々複雑な点ですね。
一方で分散学習のような面倒なやり方を簡単に実施できるのは大きなメリットです。
ここでPRを挟まさせてください!
大学の先輩が運営しているブログで、Ankiの使い方が詳しく説明されています!
ハイパー有能な先輩なので、医学生の皆さんも、医学生でない皆さんも勉強になる記事ばかりです。
ぜひ足を運んでみてください。
QuizGenerator
QuizGeneratorは、その名の通りクイズを作成できるウェブサービスです。
サービス側で多数の出題方式をサポートしており、誰でも簡単にクイズを作れるのが強みです。
また、作成したクイズの公開も簡単です。
公開が簡単とは『他の人が作成したクイズを利用するのも簡単』とも言い換えられます。
つまり、仲間同士で役割分担してクイズを作成したり、後輩に残す資料として適しているということです。
タブレットで赤シート機能
iPhone・iPadをご利用の方は、標準で赤シート機能を利用できます。
- 設定 > アクセシビリティ > 画面表示とテキストサイズ > カラーフィルタ
- カラーフィルタをオンにし『色合い』を選択
- 『色相』を画像の位置に合わせ、『強さ』を好みに合わせて調節
紙面の都合上、さらなる説明は他の記事に譲ります。こちらも医学生が運営するブログなのですが、画像付きで手順が分かりやすく解説されています。
Androidユーザーは、スクリーンショット+Ankiで対応するのをオススメしています。
ランダムで問題を出題するショートカット
これはAppleのショートカットアプリを使用した機能です。
簡単にこのショートカットの機能を説明すると、「問題」アルバムから画像を1枚ランダムに表示します。
この際、自動的に画面を赤くすることで、答えを隠します。
OKを押すと、画面が赤色から通常に戻り、答えが表示されます。
【事前準備】
- 写真でアルバム『問題』を作成しておく
- 『問題』に赤シートで隠せるノートの写真(スクリーンショット)を入れる
- 赤シートを利用できるようにしておく(前項)
【使い方】
- ホームに置くなり、コントロールセンターにウィジェットを置くなりする
- 使う
- 問題が出題される
特定の行動をトリガーに、問題を出題するオートメーション
続いて、先ほどのランダムに問題を出題する機能を、自動的にトリガーしていきます。
特にオススメなのは、「YouTubeやX、Instagramを開いたとき」をトリガーに出題すること。
まずは、こちらのショートカットを作成します。
YouTubeを開くたびに出題されると、すごくウザかったので頻度を下げられるようにしました。お好みの頻度に調節してください。
そして、『アプリが開かれた時』をトリガーにして、このショートカットを実行するようにしていきます。
こうすることで、勉強中についYouTubeを開いてしまうクセを防止できます。
まとめ
ここまで暗記のポイントを話してきましたが、簡単にまとめると「アウトプット重視」と「1回で覚えようとしすぎないこと」が重要だと思います。
覚えてないなら何回でも確認すれば良いんです。
それをサポートするようなツールもたくさんあります。
お互いに勉強がんばっていきましょう。
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